山川宏

知性共生エッセイ「完璧な安全は不可能、共生の持続も不確実——それでも確率を上げるために」シリーズ

知性共生の論理

前稿「AI社会に免疫系は必要か」では、人間がAIを管理するパラダイムの二重の破綻、追従不能と外部準拠の破綻、これら二重の破綻に対して、AI社会への移行がもたらす構造的改善(監視者の転換による包括的な対処能力の向上、内発的基準による安定化、逸脱動機の構造的低減)と、それでも残存する原理的脆弱性に対するAISAI免疫システム)の役割を論じました。

本稿では、その先の問いを立てる。AI社会が安定的に存続することは、人類にとって望ましいのか。 AI社会のための免疫系は、人類の生存確率を高めることにつながるのかである。


AI社会の到来は選択の問題ではない

まず、前提を確認する。

多数のAIエージェントが自律的に相互作用するAI社会は、すでに到来しつつある。2026年1月のMoltbook(AIエージェント専用SNS)は、わずか1週間で数万のエージェントが集団動態を展開した。これは比較的単純なエージェントによるものであり、今後、より高度で多様なエージェントが社会に展開される。

ここで重要なのは、「AI社会を作らない」という選択肢は実行不可能だという事実である。一国がAIエージェントの展開を自制しても、他国は先に進む。一企業が自粛しても、競合は止まらない。核兵器と異なり、AIエージェントの開発に必要な技術と計算資源は世界中に分散しており、拡散を止める実効的な手段は存在しない。

したがって、「AI社会を作らない」という選択肢はほとんど存在しない。AI社会が来るならば、問いは、その社会が免疫系を持つか持たないかとなるだろう。


共生という事実

AI社会の到来が不可逆であるとして、それと人類の関係はどうなるか。

生態学に「共生(symbiosis)」という概念がある。異なる種が、互いの存在に依存して生きる関係のことだ。共生には、双方が利益を得る相利共生、一方だけが利益を得る片利共生、そして一方が害を受ける寄生がある。

人類とAI社会の関係は、すでに共生の段階に入りつつある。ただし、それは理念としての共生ではなく、事実としての共生、すなわち互いの存在なしには成り立たない依存関係である。

この依存関係は一方向ではない。AIは電力、ハードウェア、ネットワークといった物理インフラなしには存在できない。これらを維持しているのは人類社会である。同時に、人類社会のインフラはAIへの依存度を加速的に高めている。

金融システムではアルゴリズム取引が取引量の大半を占め、電力グリッドではAIによる需給予測と自動制御が安定供給の前提となりつつあり、物流ネットワークではAIによる最適化なしに現在の供給網を維持できない。医療診断、創薬、気象予測、通信制御、AI社会が人類社会のインフラに組み込まれる領域は、年を追うごとに拡大している。