山川宏

生成AIフォーラム2026冬 2026年3月6日

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「AIは人類を滅ぼすと思いますか?」

講演の後、こう聞かれることが増えた。私はいつも少し考えてから答える。「滅ぼす『かもしれない』と思っています。だから、今やるべきことを考えています」と。

この答えは悲観論でも楽観論でもない。私が30年近くAI研究に携わってきた人間として、現実を直視した上での言葉だ。

シンギュラリティ(技術的特異点)という概念がある。AIが人間の知能を超え、自己改善を繰り返し、人間には予測できない速度で進化し始める転換点のことだ。「シンギュラリティは予測できない」というのは正しい。しかしそれは、「だから何も考えられない」を意味しない。

嵐が来ることがわかっているなら、嵐の中でどう行動するかを今のうちに考えるべきだ。

この文章は、私がなぜ「AIとの共生」という道に賭けているのか、その論理と、そこに至るまでの思考の経緯を、できる限り率直に語るものだ。


転換点は、すでに始まっている

2026年1月、世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)は「AGI後の世界(The Day After AGI)」をメインテーマに設定した。AGIとは「汎用人工知能」のことで、特定タスクに特化した現在のAIとは異なり、人間のようにあらゆる知的作業をこなせるAIを指す。

Anthropicのダリオ・アモデイCEOは「2〜3年以内にAGIに到達する可能性がある」と公言している。10年前なら荒唐無稽に聞こえたこの発言が、今や世界のリーダーたちが真剣に検討する現実の課題になっている。

技術的な現状を見ても、変化の速度は疑いようがない。AIがAIのコードを書くツールが登場し(Claude Code、Devinなど)、AlphaFoldはタンパク質の立体構造予測という生物学の難問を解き、AIが数学の証明を自動生成するようになった。1年前には不可能だったことが、今年には当たり前になる。そのサイクルが加速し続けている。

私がこの状況を「知能爆発の開始」と表現するのは誇張ではない。AIが自分自身をより賢くする技術を生み出し、そのAIがさらに賢いAIを作る——この自己再帰的な循環が始まれば、人間が「設計の主役」である時代は終わる。超知能の出現は、防げるものではなく、時間の問題として考えるべき段階に来ている。


AIは「道具」ではない

ここで多くの人が抱く疑問がある。「でもAIは所詮、人間が作ったプログラムでしょう?」