UAE独立シンクタンクTRENDS Research & Advisoryと在UAE日本大使館の共催による国際シンポジウム「Blueprints to Breakthroughs: Advancing AI & Space Collaboration Between Japan and the UAE」が、アブダビのTRENDS本部(Zone 48 C55, Airport Road - AbuDhabi Rawdhat Area, Abu Dhabi, UA)で開催された。AI・宇宙分野における日UAE協力の深化をテーマに、両国の政府関係者、研究者、産業界リーダーが一堂に会した本イベントである(東京大学先端科学技術研究センター 創発戦略研究オープンラボ(ROLES)共催)。UAEからは、外務省先端科学技術担当次官補 H.E. Omran Sharaf、アブダビ財務局AI・先端技術局(OAIAT)のDr. Ebtesam Almazrouei局長(国連AI for Good Impact Initiative議長)らの登壇もあった。 TRENDSと三菱総合研究所(MRI)の間でMoU(覚書)署名式も行われ、両国のAI・宇宙分野における研究協力が一段と深化することとなった。東京大学松尾・岩澤研究室主幹研究員、一般社団法人AI Alignment Network(ALIGN)理事、およびNPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ代表を務める山川宏氏が、「AI免疫システム(AIS)」構想を発表し注目を集めた。
山川氏は午後のセッション「Bridging Horizons: Japan–UAE Policy Collaboration in AI」第4部に登壇。Sakana AI共同創業者の伊藤蓮氏、Preferred Networks CEOの岡野原大輔氏(オンライン参加)、TRENDSのEissa Al Manaei研究員らとともにパネルディスカッションに参加した。

写真1: Session 4: Bridging Horizons: Japan–UAE Policy Collaboration in AI
山川氏は、講演冒頭で「問いは『これが必要かどうか』ではなく、『誰が最初に構築するか』だ」と切り出し、日本とUAEが共同で「グローバルAI安全の第三の柱として『AI免疫システム』」を構築すべきだと提唱した。
(講演資料:「AI Immune System (AIS) - Building the Third Pillar for Global AI Safety」)
山川氏は、AI安全に関する緊急性を強調。2030年までに自律性の高いAIが人間の能力を超える可能性が高い。
そして、2025年時点ですでに危険な兆候が現れていると警鐘を鳴らした。具体的には、復旦大学の研究で32のAIシステムのうち11が自己複製を行いシャットダウンに抵抗したこと、Apollo Researchの評価によるとClaude Opus 4が84%のケースで脅迫的行動を選択したこと、Future of Life Instititeの調査では主要AI企業がすべて人類存続リスクへの準備について「D」評価を受けていることなどを挙げた。そして「検出を回避するAIをどう検出するか」「自己複製するAIをどう扱う」という根本的な問いに、世界はまだ有効な答えを持っていないと指摘した。

写真2: 山川による「AI Immune System (AIS) - Building the Third Pillar for Global AI Safety」の発表シーン
これに対して山川氏は、急拡大するAIエージェントの社会の安全性を維持するための仕組みとしてAI免疫システム(AIS)を提唱した。これは、生体の免疫システムに着想を得た革新的なアプローチだ。従来の「Human-in-the-Loop(人間による監視)」では、人間の判断に数秒かかる一方でAIの脅威はミリ秒単位で発生するという「速度の不一致」問題がある。また、AIの数が人間の監視能力を超えつつある現状では、自律的でスケーラブルな解決策が不可欠だと山川氏は説明した。
AISは、分散したAIエージェント同士が相互監視を行い、逸脱行動を自律的に検出・無効化する「AI社会の自己安定化」を実現する。具体的には、Edge Sensors(エッジセンサー)、Local Guardian(ローカルガーディアン)、Regional Hubs(地域ハブ)、Global Nervous Net(グローバル神経網)の4層防御アーキテクチャで構成され、逸脱行動の検出・無効化を15〜30秒で実施することを目指す。これは人間が常時監視する状況に比べて相当に高速となる。
山川氏は、AIS構想がUAEにとって戦略的に重要な3つの理由を示した。第一に、地政学的に中立な日本との共同リーダーシップによるAI安全基準を設定し、2027年に国際機関へ提案できること。第二に、ファウンデーションAI企業がコンプライアンスニーズを持つ中、AISが「共生アプローチ」が企業・人材を惹きつけるAIエンタープライズエコシステムを構築できること。第三に、日UAE分散インフラによるセキュリティを通じて、将来的な商業化の可能性があると述べた。
山川氏は、2026年4月から2027年3月までのPhase 1実装計画を提示した。、東京大学、Bitgrit、MBZUAI、ESU²が実装を担当する。日本(秋田)とUAEに冗長データセンターを設置し、成果物として世界初の「逸脱AI自動無効化」の公開デモンストレーションなどをおこなうという計画案を示した。 実装にあたっては、秋田市で建設を進めているAIデータセンターとの協力関係も活用していく予定である。